metro_chinese’s diary

中国文化論教室

ノーベル文学賞受賞の莫言氏

本日はこの度ノーベル文学賞を受賞した莫言氏について書かれた興味深い文章を転載したいと思います。
以下は『漫慢談』2号(2000.4)に掲載された〈特集◆当代中国作家〉「納豆談義に興じる莫言さん、失わない温厚なまなざし」(大久保暁生)から転載。
 
 「ネギを細かく刻んで入れ、醤油もちょっと垂らして、よくかき混ぜてから食べると、いっそう美味しいですよ」と私が言うと、
「そんな面倒なことはしなかったよ。私はそのまんま、二口で平らげてしまった」と莫言さんは、口にかき込むまねをしながら笑って言った。
 昨年晩秋のある夜、茶室のような雰囲気がある都内のある料理屋で、「莫言先生を囲む会」(駒沢大学にて開催された)の懇親会が開かれていた。宴もたけなわ、話題は文学、政治から日本の食べ物までに及び、「納豆談義」がしばらくつづいた。
 日本酒がほどよくゆき渡ったせいだろうか、莫言さんは実に楽しそうによもやま話に興じている様子だった。時折はにかみながら笑い、伏し目がちに話すその姿は、「大作家」にありがちな尊大ぶった態度を微塵も感じさせない。逆に、一昔前の中国で、長距離列車の三等硬座席でよく乗り合わせていた、正直で温厚な田舎のお兄さん、という印象を私は受けた。その気さくな態度と穏やかな口調、ユーモラスな語りのおかげで、会場は和やかな雰囲気に包まれ、初対面の若手研究者や学生も歓談に加わることができた。
 (中略)
中国を代表する作家の一人にまで上り詰めた彼だが、一寒村の農民の子の視線は失われていなかった。それは莫言文学の根底にある、億千万の農民に注ぐ温厚なまなざしだといえる。
 

 以上、大久保氏の文章を転載させてもらいました。卒業論文修士論文莫言氏を扱った大久保氏ならではの文章といえるのではないでしょうか。なお『漫慢談』2号(2000.4)には莫言氏のことが書かれた文章がもう一篇掲載されています。こちらも後日ご紹介できればと考えています。ちなみに大久保氏が莫言初心者にお勧めする作品は「歓楽」とのことです。